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心霊スポット巡礼ツアー⑦

 一つめの橋とは打って変わって、こちらは少々暗い。

 街路灯も橋の手前にしかない。

 

 懐中電灯片手に橋を渡ることに……

 

案内人「藤白さん。先程もいいましたように、こちらの橋では何があっても、絶対に振り返ってはいけませんよ」

藤白「え? それ、フリ?」

案内人「違います! 振り返るのは、渡り切ってからにしてくださいよ。じゃないと、何があっても自己責任ですからね」

 

 案内人の言葉に「これって、タクシー会社の方で驚かせる仕掛けとかしてるんじゃ……」と内心疑う藤白。

 

 とりあえず、ワクワクしながら橋へと一歩踏み出す。

 

藤白「ふーん。暗いけど、まあ、前後に街路灯もあるし。大したことないか」

 

 左右を見渡しながら進む。

 すると、背後から

 

 タッタッタッタッタッと誰かが駆け寄る音がする。

 

藤白「あれ?? もしかして、案内人さんが追いかけてきたのかな?」

 

 一瞬、振り返ろうと思ったが、案内人の言葉を思い出す。

 

藤白「あー……ここで振り返ったら、きっと案内人が『あーあ。振り返っちゃ駄目って言ったのにぃ!』とか言いそう。これ、そういうドッキリか」

 

 などと苦笑して、そこで立ち止まる。

 

 だが、一向に足音が近づく気配はない。

 

藤白「ん? おかしいな……」

 

 訝しく思いながらも、再び進む。

 

 すると──

 

 タッタッタッタッタッタッ

 

 再び、誰かが駆け寄る音がする。

 

藤白「……これって……まさか……」

 

 こちらは歩き

 音は駆け足

 なのに一向に近づかない

 

 その理由は明白だ。

 

 背後に何かしらの気配を感じながら、橋を進む。

 

 すると今度は

 

「オイオイッ!」

 

 右手の山の上から甲高いオヤジの声が聞こえた。

 

 その声は、まるで目玉のオ〇ジのようだ。

 

 藤白、思わず噴く。

 

藤白「ちょwwwまってwww」

 

 すると再び

 

「オイッ! オイオイッ!」

 

 またもや同じ声が響く。

 

 周囲を見渡すが誰もいない。

 周りに民家だってない。

 

 車も通らないし、橋はそこそこ高い位置にある。

 周辺で身を隠す場所すらない。

 

藤白「なんだ、これ」

 

 心霊現象なのか、コントなのかわからない心境のまま、橋を渡り切る。

 

 すると、数メートル先に民家があった。

 とはいえ、民家は奥まったところにあり、手前には車が数台停まっている。

 車の中にも、その周辺にも誰もいない。

 

 先程の甲高いオッサンの声を出した仕掛け人はいなさそうだ。

 

藤白「まあ……仕掛け人がいるんだったら、案内人を問い詰めればわかるだろう」

 

 藤白はそのままUターンをして、元来た道を戻る。

 

 すると、橋の向こうで一人踊る案内人の姿が……

 

藤白「何やってるんですか?」

案内人「あ、クワガタがいたんで……」

 

 案内人は藤白そっちのけで、クワガタを捕まえて遊んでいたwwww

 

藤白「ちょwwそれより、さっきなんですけど。私が橋を渡り始めてから、追いかけてきました?」

案内人「……まってまってまって。またですかあ?」

藤白「え?」

案内人「なんでそんなに体験しちゃうんですか」

藤白「あ、やっぱり、足音は案内人さんの仕掛けじゃなかったんですね」

案内人「仕掛けなんてしてませんよ!」

藤白「またまたまたあ。あの目玉のオ〇ジみたいな声、なんですか。アレ、めっちゃ笑いましたよ。アレは駄目っすよ!アレは」

 

 ケラケラ笑う藤白に、顔を青くする案内人。

 

案内人「なんですか……その、目玉のオ〇ジみたいな声って……私も知りませんよ」

藤白「え、だって。「オイッ! オイオイッ!」って、目玉のオ〇ジっぽい声で声を掛けられたんだけど……」

案内人「そんな話、聞いたことないです……で、でも……実はうちの会社で霊感のある上司がいるんですが……」

 

 そういって案内人が話し出した内容は、霊感のある上司は、ここに来るたびに橋の手前にあるブロックに老人男性の霊が毎回座っているのを見かけるというものだった。

 その上司は、その霊が視たくないから、この道は通りたくないと言って、近づかないのだという。

 

案内人「ここで老人男性の霊が出るなんて一言も言ってないのに、目玉のオ〇ジみたいな声が聞こえたって聞いて……ここ。ガチなんだなって、あらためて思いました」

 

 

 藤白が耳にした声の主は、霊感のある上司が視た老人男性の霊の声だったのかもしれない。