あれは、神戸Tホテルがオープンしてまだ間もなかったころの話だ。
駅から徒歩五分圏内。
しかも、新しい。
ビジネスホテルとはいえ、そこそこ室内も広く、快適な部屋である。
とはいえ、藤白は基本的に出張先では朝から晩まで仕事をしたあとは、飲みに行くことが多い。
その日も、営業と一緒に夜の街(?)に繰り出した。
神戸は美味しい食事が多い。
肉好きの藤白としては、肉三昧を堪能する。
ビールやワインをたらふく飲んでも、きちんと風呂に入り、再度、部屋で缶ビールとカップ麺は欠かせない←いや、成人病予備軍になるからヤメロ!
部屋での夜食を堪能したあとは、当然!!
良いこの皆さん!
歯磨きは欠かせませんよね???
藤白も歯磨きして爆睡しましたとも!!
で
す
が
翌朝
シャワーを浴びようと、洗面所に入った藤白
そこで、あり得ないものを見てしまう。
藤白「え? なにコレ……」
歯磨き用の真っ白なコップに血がついている。
しかも、三本の指でなぞったような赤い指痕──
藤白「うわっ!? 酔っぱらってケガした??」
慌てて自分の全身を確認する。
が
ケガは見当たらない。
打ち身もない。
室内も特に乱れた様子もない。
け
れ
ど
コップには血がついた指でなぞったような痕がついている。
すでに乾いている。
濡れたティッシュで拭けば消える。
ティッシュが赤くにじむ……
もしも自分の血液だとしても、なんだか気持ちが悪い。
とりあえず、フロントにコップを持っていく。
フロント「どうされました?」
藤白「なんか、自分はケガもなにもしていないんですが、コップにこんな汚れが……」
サッと顔色を変えるフロント職員。
即座に藤白の部屋番号を確認すると、頬をヒクつかせた。
フロント「あの……こちらへ……」
奥の部屋に案内され、支店長か支配人らしき人が対応する。
彼の説明によると、どうやら清掃時のミスらしい。
平謝りされ、その日の宿泊代は無料にしてくれた。
藤白も
(あー……きっと酔っぱらって、昨夜、歯磨きした時点では汚れに気が付かなかったんだな)
と納得したのだが──
そのことを、同じホテルに泊まっていた営業に話す。
すると、彼もまた顔色を変えた。
営業「実は、このホテル。オープン当日に女性が自殺してるんだよねえ」
藤白「は?」
営業「でるっていう噂、多いらしいよ」
藤白は幽霊は視ていない。
夜中に出ていたのかもしれないが、気が付いていなかった。
もしかしたら、まったく気が付かずに爆睡していた藤白に対して、霊が意趣返ししたのかもしれないが……
今年閉館したらしい神戸Tホテルには、その後一度も宿泊していない。
真相は闇の中である。