あれは小学校低学年の頃だった
父の在所(実家)には、従兄弟の兄貴と姉貴がいる
二人とも、藤白より10歳前後年上なのに、昔からよく遊んでくれた
二人のおかげでムー、マヤといったオカルト系や漫画の面白さを覚えたと言っても過言ではないだろう
そんな二人から、藤白は心霊写真集を貰った
確か、あれは「中●俊哉」さんの「恐怖の心霊写真集」だったと思う
(カバーを外すと、白黒の表紙で……骸骨の細かい絵が描かれていたような記憶が……うろ覚えだけど……)
中身は日本の心霊写真だけでなく、海外の幽霊、妖精、エクトプラズムといったものが載っていたと記憶している
主に白黒写真であったが、文字よりも写真のインパクトが強く、夢中になったことを今でも覚えている
心霊写真集を貰った時には、すでにカバー表紙はなくなっていた
むきだしになった表紙も白黒で、少々不気味なデザインだったように思う
そのせいか、祖母が「こんな気持ち悪い本を貰ってきて……」と苦笑いしていた
姉と藤白は、飽きもせず心霊写真集に夢中になり、学校に持って行ってクラスメイトたちの間でオカルトブームを巻き起こした
けれど、ブームというものは、あっという間に過ぎ去るもの……
心霊写真から、こんどは「こっくりさん」「キューピッドさん」といった交霊的な遊びをしたり、怖い話の方にシフトがチェンジしていく
いつしか心霊写真集の存在を忘れていたある日のことだ
ふと本棚を確認すると、心霊写真集がない。
藤白「おばーちゃん。ここにあった心霊写真集や恐怖体験談ってどこにあるか知ってる?」
祖母「廃品回収に出したわよ」
藤白「ええ??」
祖母「だって、圭もお姉ちゃんも、もう読んでないじゃない」
確かにその通りだが……
オカルト系以外の漫画や小説は捨ててないじゃないか!!
これは絶対、祖母の趣味じゃなかったから廃品回収で捨てられたのは間違いない
確かに、一般的に考えて心霊関係の本が家にあるのは、あまり気持ちがいいものではないだろう
祖母が捨ててしまう気持ちもわからなくはない
がっくりと肩を落としつつも、廃品回収に出されてしまったものは取り返しようがない
諦めていたその日の夜だった
当時は姉と一緒の部屋で寝ていた
深夜
藤白の顔面に何かが落ちてきた
藤白「いった!!」
姉「うるさい!」
藤白「姉ちゃん、寝相悪いんだよ!」
姉「私、圭から離れてますけど??」
喧嘩をしながら電気をつける
すると──
ベッドの上には例の「恐怖の心霊写真集」が落ちていた
藤白「え……」
姉「おばあちゃん、廃品回収にだしたって……」
藤白「それより、これ。どこから落ちてきた?」
藤白と姉のベッドの上には天井しかない
クローゼットは離れた位置にある
電気だって天井に備え付けのものだ
物が落ちてくるなんてありえない
藤白と姉は顔を見合わせた
藤白「……これ、やばいんじゃ……」
姉「……うん。傍に置いていたらいけない気がする」
不気味さを感じ、捨てることを決意する
ちょうど翌朝は生ごみや可燃ごみの日だった
姉と藤白、二人で生ごみや可燃ごみの入ったごみ袋に入れて、ごみステーションに出しに行く
姉「これなら問題ないでしょ」
藤白「燃やされるしね。戻ってこれるわけがない」
ホッとしたのは、その日の夕方までだった
学校から帰宅し、漫画の続きを読もうと本棚へ向かう
そこで待っていたのは本棚の中におさまっていた「恐怖の心霊写真集」だった
藤白「嘘だっ!」
本棚から心霊写真集を取り出す
生ごみの中に入れたのに、汚れ一つない
藤白「なんで? なんで? なんで?」
大切にしていた人形を捨てると、戻ってくるという話がある
藤白「まさか……ね?」
嫌な予感がした藤白は、今度こそはと思い、愛犬の散歩時に川へ投げ捨てた
ドボンッ
悪いことをしている意識はある
だが、背に腹は代えられない
川底へと沈む心霊写真集を見送り、手を合わせた
藤白「二度と帰ってこないでくれ」
その後
心霊写真集は帰ってこなかった
平穏な毎日を過ごす藤白家
恐怖は忘れた頃にやってくることを、この時の藤白は知らなかった
それは、半年ほどすぎた時のことだ
藤白は小学校の修学旅行で京都奈良に行った
クラスメイトたちと神社仏閣を見て、夜にはレポートのようなものを書かされる
学びもあるが、楽しみもある
ごはんを食べ、風呂に入り、修学旅行名物枕投げを楽しんだあとは
お菓子を食べながら、みんなで雑談大会
鞄の中に忍ばせたおやつを取り出そうとしたとき
そいつは現れた
藤白「は?」
友人A「どした?」
友人B「お! 心霊写真集じゃん。早速、怪談トークでもする?」
かたまる藤白をよそに、盛り上がる友人たち
みんなが恋バナや下ネタよりも心霊写真集に夢中になる
普段であれば、そっせんして心霊ネタをぶっぱなす藤白だが
何度捨てても戻ってくる心霊写真集は笑えない
顔色を悪くする藤白に、オカルト大好きな友人Dが話しかけてきた
友人D「怪談トークでおとなしいなんて、珍しいじゃん。どうした?」
藤白「いや……その本……実は……」
藤白が説明すると、悲鳴をあげて怖がる友人たち
けれど、さすがはオカルト大好きなD
面白がって、心霊写真集を欲しがった
友人D[そんないわくつきなら欲しい」
藤白「何があっても返品不可だぞ」
友人「いいよいいよ。返品なんてしないし」
嬉々としてもらってくれたD
その一か月後、Dは引越しして、他県へと行ってしまったのだが──
Dを新しい主と認めtたのだろうか
あれから件の心霊写真集は我が家に帰ってきてはいない
だが、Dの家には──
もしかしたら、捨てても捨てても戻ってきているのかもしれない