あれは、忘れもしない。
祖父の初盆の日のことだ。
親戚も集まり、お坊さんによる初盆供養が終わったあとは、お酒の好きだった祖父を偲びながら、宴会をした。
みんなが帰宅したあと、普段は二階で寝ている藤白は、祖父の魂が我が家に帰ってきていることを歓迎するという意味で、姉と仏間に布団を敷いて寝ることになった。
朝からバタバタしていたせいか、すぐに眠りに落ちた。
ぐっすり眠っていたのだが、急に全身がグッと締め付けられるような感覚がして目が覚めた。
藤白「う……うう……」
全身が動かず、声すら出せない。
完璧な金縛りだ。
必死に指先を動かしたり、ちょっと離れた場所で寝ている姉を起こそうと、声を出そうとするが、まったく無理で困惑する。
すると、閉めたはずのカーテンが開いていることに気がついた。
藤白(え? まって。提灯の灯り?)
ゆらゆらとオレンジ色のぼんやりした光が近づいてくる。
それは徐々に人の形をなしていく。
藤白(三人?)
着物を着た女性二人に先導される形で、公家のような恰好をした男性がみえた。
白塗りの顔が闇夜に浮かぶ。
藤白(はぁーーー??? 公家? 公家なのか? なんでやねん! まじで眉毛、麻呂ってやがる!)
内心、パニックになりながらも悪態をつく。
そして、麻呂with女官が窓を叩きだす。
ドンドンドンドンドンドンドンッ!
けたたましい音が鳴り響く。
だが、姉も両親も祖母も起きない。
麻呂「あーーーけーーーーてーーーー」
藤白「うーうーうーうーうーうー」(金縛りでうごけねーっつーの!)
女官「おあけなさい~」
藤白「うーううううううー」(声もだせねーっつーの!)
窓をバンバン叩く三人の平安美女と麻呂。
そして、うなり声をあげる藤白。
真っ暗闇の中での攻防は五分以上続いたと思われる。
すると、爆睡していた姉が叫んだ。
姉「ちょっと! 圭! どうした?」
その瞬間、ムンクの叫びのような顔をして、消え去る麻呂たち。
藤白「ガハァァァーーーーーッ」
勢いよく息を吸い込み、咽る藤白は、そこで金縛りが解けた。
姉「何があったの? 目を見開いたまま、瞬きもせずに唸り声をあげていたけど……」
藤白は姉に自分の身に起きた出来事を話す。
すると姉は平然とした顔で「よかったね」と微笑んだ。
姉「ほら。吸血鬼とかって、招かれたり、家に入る許可を得ない限り、入ってこれないじゃん? 圭が麻呂に家に入る許可をしてkたら、やばかったかもよ?」
藤白「いや、まて。招く、許可する以前に、わし。金縛りにあってて何もできませんでしたけど?」
姉「……麻呂はばかなの?」
藤白「……」
それが、これから十年以上続く、「お盆といったら麻呂だね!」という、十年以上続いている平安貴族幽霊「麻呂」と藤白との出会いの出来事だった。
さて……今年も13日から15日の間に、麻呂は来るのだろうか?
乞うご期待!!