小学校の夏休み。
家族旅行でK川シ―ワールドとN川アイランドにいった時のことだ。
二日宿泊したのだが、どちらも敷地内にあるオフィシャル的なホテルに泊まった。
K川シーワールドでは何事なかったものの、N川アイランドのホテルは、動物や鳥、植物園のあるエリアからホテルに行くまでの道が、すでに妙な雰囲気を醸し出していた。
特に怖かったなと今でも思うのは、途中にあった小さなトンネル。
青白いというか緑白いような光を放つ街路灯。
そして、真夏だというのに、湿気を帯びた冷気が漂うトンネルは、子ども心に「なんかでそう」と思ったことを覚えている。
ただ、ホテル自体は大きくて立派。
フロントも広く、昔の旅館のような感じで赤い派手なカーペットが、かえって明るく感じたような記憶がある。
食事もおいしく、大浴場も広くて綺麗。
二日間、水族館に動植物園と楽しんだ藤白は、疲れていたのだろう。
布団に入ってすぐに寝てしまったのだが──
深夜、あまりの暑さで目が覚める。
周囲を見渡すが、家族全員爆睡中だ。
電気をつけるのを躊躇する。
とりあえず、自動販売機でジュースでも買おうと思い、自分のお小遣いのはいった財布をもって、廊下にでた。
(この当時、オートロックではなく、鍵穴に鍵をいれて施錠・開錠するタイプです)
すると、ものすごく人がいる。
しかも、廊下からフロントを見下ろすと、夜中だというのに、めちゃくちゃ混雑している。
藤白「え? なんで? 今日は何かあるの?」
不思議に思っていると、横から奇妙な服を着た人が数人、一定の速度で姿勢よく歩いてきているのが目の端に見えた。
振り返ると、先頭の人はもう目の前にいた。
彼らは顔を真っ直ぐ正面にむけている。
藤白の姿は見えていないようだ。
ぶつかる!!!
そう思い目を瞑る。
が
いつまでたっても体に衝撃はこない。
うっすら瞼をあけると、藤白の体を彼らは通過していた。
藤白「え……」
そういえば、ロビーも廊下も非常灯しかついておらず、薄暗い。
それなのに、彼らはやけに鮮明に……いや、よくみれば、透けている。
藤白「うそだ……」
まっすぐ廊下を歩いていく彼らは非常扉の向こうへ消えていく。
もちろん
扉を開けることなく━━
しかも、その後も非常扉からは女性や男性が出たり入ったりするだけでなく、ロビーのざわめきもおさまらない。
これはヤバいなと思い、藤白はジュースを買うのを諦め、部屋に戻った。
翌日、姉に一度部屋を出たか尋ねられ、素直に頷く。
すると姉が首を傾げた。
姉「あ……あれ、夢じゃなかったのかな」
姉が言うには、藤白が廊下に出るのを、天井の位置から見ていたのだという。
そして、薄汚れた軍服を着た人たちにぶつかりそうになったり、もんぺをはいた女性や子どもたちが廊下を走り回っていたのを見ていたのだという。
姉は幽体離脱をしていたのだろうか?
そして、藤白がみたものとはいったい━━
ちなみにN川アイランドには旧日本軍の地下施設や爆薬庫があったとか。
N川アイランドでは小象の霊が母象に寄り添っていたり、フラミンゴショーで舞うフラミンゴの中に得体の知れない何かがいたりと、藤白だけでなく、多くの人がいろんなものを見ているという噂のスポットなだけに、『なにか』がいるのかもしれませんね。
※現在N川アイランドは廃墟となっているそうですが、心霊スポットとしても有名みたいです。