まだ二十代の頃だ。
出張先で、得意先の方から怖い体験談を聞いた。
なんでも、「連鎖する霊」というものがいるらしい。
どんな霊なのかといえば、髪の毛の長い女の人なのだという。
得意先の人も別の誰かから、その幽霊の体験談を聞いたのだそうだ。
内容は──
夜、金縛りで目が覚めると、嫌な気配がする。
体が動かないものの、足元に誰かがいるような気がした彼は、なんとか動く首をあげ、自分の体を見下ろした。
すると、足元の布団が盛り上がっており、それはゆっこりとゆっくりと足元から徐々に体の上へと這い上がってくるではないか。
嫌だ。
絶対に何かいる。
誰か、誰か助けてくれ!!
声にならない悲鳴をあげるが、誰も助けてはくれない。
そうこうしているうちに、布団の盛り上がりは、胸元まできていた。
彼は「やばい! このままでは目を合わせてしまう!」と思い、瞼を閉じようとするのだが、何故か瞼が動かない。
次の瞬間、布団の端が持ち上がる。
トンネル状になった布団の奥から、ジッとこちらを見つめる女性がいた。
「ひぃぃぃ!」
彼の口から悲鳴が漏れた。すると、女の目がギョロリと彼を睨んだ。
「ようやく見つけた。逃がさないわ……」
口を一切動かすことなく、女が喋る。
そして、真っ白な手が彼の喉元に伸ばされた。
彼は必死になって叫んだ。
「俺じゃない。俺じゃない! 俺はあなたんか知らない。俺はあなたが探している人じゃない!」
彼の必死さが伝わったのだろうか。
急に体が軽くなり、金縛りが解けたという。
もちろん、女の幽霊も消えていた。
そんな話を聞いた得意先の人は、「あははは。幽霊なんているわけないでしょ。今まで僕、心霊スポットや幽霊がでるホテルでも心霊体験したことありませにんよ」と笑い飛ばしたらしい。
得意先「でもね……そんな僕の前にも、その女性がでたんです……」
得意先の人もまた、同じような体験をしたという。
違いはといえば、彼の場合、金縛りがすぐ解けたらしく、足首を掴まれたのだという。
得意先「しかもね。これ、一昨日の夜の話なんですよ」
得意先の人がズボンの裾をあげる。
靴下をさげると、素肌がみえた。
そこには誰かに掴まれたような赤紫の痕がくっきりと残っていた。
得意先「ね。藤白さんも、今夜は気を付けてくださいね」
ニヤリと笑う得意先の人に藤白が苦笑したのは言うまでもない。
⇒➁に続く
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