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行橋Rホテル──後編──

 仕事が終わり、得意先と営業と一緒に食事をした藤白。

 美味しい食事と美味しいお酒で、昼間の出来事はすっかり忘れてホテルに戻りました。

 

 シャワーを浴び、そのままベッドへダイブ!

 

 すぐに爆睡!

 

 意識を失うように眠りにつきました。

 

 

 が!!!

 

 突然、物凄い冷気に襲われ、ブルりと震えて目が覚める藤白。

 途端、布団がバッと引っぺがされた。

 

藤白「!?」

 

 声にならない悲鳴を上げるが、体が動かない。

 カーテンの隙間から差し込む、街路灯の明かりで、うっすらと室内の様子が見える。

 気持ちを落ち着かそうと思い、大きく息を吐く。

 すると、口から白い息が吐きだされた。

 

藤白(え……暖房が入っているのに?)

 

 よく見れば、テレビの画面も霜のようなものがびっしりついていて、真っ白だ。

 

藤白(これ……ヤバいかも)

 

 更に室内の空気が冷えていく。

 布団を被ろうにも、体がまったく動かないどころか、首すら動かすことができない。

 目だけをキョロキョロさせていると、突然、テレビや照明が点いたり消えたりしだした。

 

藤白(やばい。くるぞ……やばいヤツがくるぞ……)

 

 今まで感じたこのない邪気というか、悪意の塊のような気配を感じた直後

 

 バンッ!

 

 という大きな音とともに、浴室の扉が開いた。

 

 ブオンッと音を鳴らして、テレビの電源が消える。

 

 すると、テレビの上あたり……部屋の角に黒い靄が現れはじめる。

 

『ヴォォォォォォォヴォォォォォォォ』

 

 低く、唸るような男の声と共に、黒い靄が大きくなっていく。

 その靄の中に、不気味な顔らしきものが形成されていく。

 

藤白(どうしよう。般若心経を唱えようにも、声すらでない!)

 

 黒い靄の中にいる男の全体像が形成され、こちらに向かってきたら、本当に危険だと感じた藤白。

 頭の中で(どうする? どうすれば退治できる?)と、焦っていた。

 

 切羽詰まった状況の中、藤白の頭の中に、何故か穏やかな声が響いた。

 

『おんしらばったーにりうんそわか おんしらばったーにりうんそわか おんしらばったーにりうんそわか』

 

 まったく聞いたことのない呪文のような言葉だ。

 けれど、藤白は何故か、この言葉が自分を助けてくれる気がした。

 

 そこで、頭の中ではあるが、穏やかな声に合わせ、同じように『おんしらばったーにりうんそわか』と、何度も何度も唱えた。

 

 すると、口を動かすことができ、声が出るようになった。

 藤白はすかさず、同じ言葉を口に出して唱えた。

 

藤白「おんしらばったーにりうんそわか おんしらばったーにりうんそわか……」

 

 大きくなっていた黒い靄がどんどん小さくなっていく。

 もちろん、靄の中に形成されていた男の姿も消えていく。

 それと同時に、あれだけ寒かった室内がだんだんと暖かさを取り戻した。

 

 パンッという弾ける音とともに、室内が急に明るくなる。

 

藤白「消えた……」

 

 跡形もなく消えた黒い靄にホッと胸を撫でおろし、ベッドの足元に全部落ちた布団をベッドの上に戻した。

 

藤白「マジでアレ……ヤバいやつだったな……」

 

 憎しみや恨みつらみ、嫉妬なんかではない。

 なんというか、とにかく人を不幸にしたい、殺したい、発狂させていという「悪意」だけを感じる黒い靄の中にいた男の存在は、祓う、除霊するというレベルのものではないのを本能的に感じた。

 まさに「得体の知れない邪悪なもの」の存在に、ゾッとしつつも──

 

 それ以上に、藤白を助けてくれた呪文が気になった。

 

 藤白は即、スマホで『おんしらばったにりうんそわか』と文字を入力した。

 

 すると、すぐに『豊川稲荷』がヒットした。

 

 ページを開くと、『オンシラバッタニリウンソワカ』というのは、吒枳尼眞天様のご真言だと書かれてあり、豊川稲荷の鎮守神として祀られていると書かれてあった。

 

 藤白はそれまで、初詣は五社稲荷と法多山で参拝していました。

 豊川稲荷には、小さい頃一度か二度くらいしか参拝していなかったと思う。

 ただ、亡くなった曾祖父の会社では、毎年、豊川稲荷さんに参拝していることを知っていた。

 

藤白「もしかして、ひいじいちゃんが守ってくれた?」

 

 自分自身では、ほとんどご縁のなかった豊川稲荷だったにも関わらず、助けられたことに深く感謝した藤白。

 出張から帰宅したあとの最初の休日に、さっそくお礼をしに豊川稲荷を参拝しました。

 

 それが、かれこれ八年か九年前ほどでしょうか。

 

 それ以降、ご縁を感じ毎年、欠かさずどころか、

『運気が下がったな。気分転換しよう』『もっと頑張らなくては。気合を入れよう』『ここが勝負! あとは神頼み!』

 そんな時には必ず、参拝するようになりました。

 

 そして、参拝した後には、気持ちが軽くなり、清々しい気分になるのは勿論のこと

 必ずといっていいほど、いい事が起きたり、吉報が入るんですよ。

 

 八年前というと、ちょうど、藤白が投稿サイトエブリスタのe-ヤングマガジン大賞で入賞した年。

 そして、その後すぐに「意味が分かると怖い話」の書籍化打診が来たわけですが……

 

 もちろん、日々の努力は欠かさず頑張ってきた自負はあります。

 家族、友人、クリエイター仲間に支えられてきたからこそという感謝の気持ちも大きいです。

 ですが、その努力に「チャンス」を与えてくれたのは、吒枳尼眞天様、豊川稲荷(妙厳寺)のご本尊である千手観音様の力もあるのではと思うのです。

 そして、助けてもらったり、チャンスを与えてもらったり、ご縁をつないでもらったあとは、ちゃんとお礼をすること。

(藤白も必ず『礼謝』参拝しております)

 

 お互いに気持ちよく、WinWinな関係を築くことが大切だなと思っています。

 

 

 最後に……

 藤白は豊川稲荷さんにご縁を頂きましたが、人に相性があるように、神様や仏様とも相性はあります。

 皆様にも、ご縁のある神様や仏様、神社仏閣とのご縁がありますように。

※ただし、ネガティブなお願いだけは禁止ですよー!

 お礼&前向きなお願い+自己努力!

 

 というわけで、今回のお話は『危機一髪』からの『大逆転』でした!