これは昨日あったばかりの出来事だ。
昨夜、妙に喉が痛く、体がだるかったので、早めに就寝した。
ところが、深夜、愛犬のマロスケのキュンキュン鳴く声と、忙しなく走り回る音が聞こえて目が覚めた。
藤白「この様子は、たぶん、下痢か……」
姉が夜の散歩に連れて行ったときに、うんPはでたというが、エアコンでお腹を冷やしたのだろう。
眠い目をこすり、マロスケにリードをつけて、門を出る。
勢いよく走るマロスケ。
ひたすら、トイレポイントを目指し、鼻息荒く走る。
いつもの場所で下痢Pを終え、ホッとするマロスケの横で、うんPの処理をした。
藤白「眠いし、頭痛いから帰るよ」
もと来た道を戻る藤白とマロスケ。
けれど、なぜか、途中でマロスケが遠回りをしようとする。
普段、散歩嫌いですぐに抱っこというマロスケにしては珍しい。
仕方なく、マロスケの行きたい方へと向かう。
すると、背後から奇妙な音が聞こえてきた。
キィィィコォォォォォギィイィィコォォォォォォ
古く錆びた自転車をこぐ音だ。
その音はだんだん近づいてくる。
藤白「こんな夜中に……」
なんとなく不気味な気配を感じて振り返る。
だが、誰もいない。
それでも音はどんどん近づいてきている。
マロスケの歩く速度も速くなる。
すると、音もまた──
キィコォギィコォキィコォギィコォ──と速くなる。
比較的街路灯の多い場所だ。
数十メートル先や後ろは余裕で見える。
だが、背後からも前方からも自転車がきている様子はない。
嫌な予感がした時、ブロロロロロロロッと音をたてて赤い色をした原付バイクが近づいてきた。
白いヘルメットを装着し、長袖の制服を着ている。
郵便物を配達している人だ。
一気に警戒心を解く。
バイクが通り過ぎたと同時に、錆びた自転車の音は聞こえなくなった。
ホッと息を吐いた藤白だが、ふと、違和感を覚えた。
藤白「いまって0時過ぎだよな……深夜に郵便配達って……?」
ガソリンの臭いが鼻腔をくすぐる。
真横を通り過ぎたバイクは幻ではないことだけは確かだった。