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隙間➀

 隙間や穴って、ついつい覗きたくなりませんか?

 ソファーの下、物置部屋の扉、窓、箪笥と壁の間。

 壁や障子にあいた穴、マンホールや岩や崖、地面にできた穴なんか、ついつい覗きたり、つっつきたくなったりしますよね?

 

 小さい頃。

 よく、アリの巣の中にミミズやダンゴムシを突っ込んだり、水や火のついた爆竹を入れたりしていた。

 アリたちの動きや反応が面白くてやめられない。

 穴の中から慌てて飛び出してくる大量のアリを見ては、恍惚な表情を浮かべていたという。

 子どもって、いま思うと、好奇心の塊なだけに、善悪がわからず残酷だったなと思う。

 夏休みのある日のことだ。

 友だちがセミの幼虫が出てきた穴の中に水を流し込んでいた。

 

 

藤白「何してるの?」

友人「ここから声が聞こえるんだ」

藤白「どんな?」

友人「わかんない。でもね、すっごくすっごく気持ち悪いの」

藤白「水を入れると消えるの?」

友人「声はね……」

 

 友人はそこで言葉を切った。

 友人が藤白をじっとみたあと、視線を穴へと向ける。

 その仕草から、「この穴に耳をあててみなよ。そしたら、わかるから」と言葉にしなくてもわかる。

 

 好奇心旺盛な藤白は、さきほど友人が水をいれたばかりの穴に耳を寄せた。

 

 ポコ……グボボボボボ……ボゴボゴボゴォォォォオ

 

 誰もいないはずなのに

 誰かが水の中で息を吐いているような

 苦しみもがくような音がした

 

 ハッとして耳を穴から外す。

 

藤白「中に何かしる……」

友人「だから水に沈めたの」

 

 ニタリと笑う友人は、穴の中にいるモノの正体を知っているのだろうか?

 なんとなく怖くなり、藤白は友人に「またね」と告げて、自宅に帰った。

 

 新学期になると、その友人は家の都合で引っ越したことを知った。

 彼女の家の前を通ると、たしかに人気がない。

 けれど、彼女の家のまわりの地面には、小さな穴がたくさんあいていたことを今でも覚えている。

 

 セミの幼虫が這い出てくる程度の小さな穴が──。