あれはまだ、社会人になって一、二年経った時のことだったと思う。
みんなでハロウィンパーティを開催した。
当時は、コスプレの衣装やメイク道具がいまほど売っていなかった。
それでも、みんな、ゾンビや魔女、好きなアニメのキャラクターになりきって、メイクをしたり、衣装を作ったりして、仮装をしたものだ。
藤白は幹事役をよくする。
お店を貸し切っているので、参加者名簿を作成し、友だち二人に受付を任せた。
名簿に記載された人、全員が会費を払い、受付をすませたところで、パーティー開始!
すでに社会人だから、お酒も入るし、大人数だからこそ、盛りあがる。
お四十人から五十人ほどの大人数で歌ったり、踊ったり、ビンゴ大会をして楽しんだ。
もちろん、仮装をしているのだから、当然、仮装大賞だってやる。
みんなで投票し、1から5位までを決定する時には、盛り上がりは最高潮に達していた。
藤白「それでは! みなさん、おまちかねの仮装大賞の発表です!」
藤白のひと言で、会場はシンッと静まり返る。
みんなから回収した仮装大賞の投票権を集計したものをチェックし、5位からは発表していく。
入賞者の名が呼ばれるたびに、拍手喝さいの嵐だ。
もちろん、入賞者には前に出てきてもらい、一芸を披露してもらう。
そうすることで、どんどん上位入賞者を煽っていく。
四位、三位、二位まで発表したところで、突然、お店のスタッフが駆け込んできた。
スタッフ「藤白さん。あの……A倉さんからお電話が……」
藤白「え? A倉さん?」
A倉というのは、この時のハロウィンパーティーの参加者だ。
受付だって済ませている。
それなのに電話がきているというのはどういうことなのだろう?
不思議に思い、「さとえ(A倉)はここにいますけど」と答えた。
スタッフ「それが、A倉さんのお母さんからなのですが」
困ったような顔をするスタッフを見て、いったん、仮装パーティーの表彰を中断し、藤白は店の電話に出た。
藤白「もしもし。藤白です」
A倉母「圭さん? A倉の母です。娘が……娘がさきほど病院で息を引りまして……携帯を見たら、今日、圭さんたちと呑みにいく約束をしているって、書いてあったから……。ごめんなさい。、娘が行けなくて……」
泣きながら話すA倉母に、藤白は戸惑う。
藤白「え? 待ってください。さとえ、ここに来ていますけど?」
A倉母「は? いくら圭さんでも、冗談がすぎますよ!」
烈火のごとく怒るA倉母の様子から、さとえが亡くなったのは間違いないようだ。
では、受付してくれた二人のミスなのか?
藤白はもやもやした気持ちのまま、A倉母に謝ると、受付の二人に話を聞いた。
B子「え? さとえの顔をみて、チェックをいれたから間違いないよ」
C菜「そうだよ。会費だって貰っているし」
藤白も受け取った会費をすべて確認する。
すると、名簿でチェックした人数分きちんとある。
ところが、肝心のさとえ(A倉)の姿がどこにもない。
しかも、会場にいた参加者のうちB子、C菜以外、さとえの姿を見た人はいなかった。
もちろん、参加者の人数を再度確認した。
すると、参加者は名簿の人数から、さとえを引いた数と同じだった。
藤白「それじゃあ、受付にきたさとえと、このお金はいったい……」
ハロウィンパーティーの翌日。
藤白を含む、ハロウィンパーティーに参加した友人たちは皆、さとえの通夜に参列した。
もしかしたら、さとえは、みんなとの楽しい思い出を最後に味わいたくて、ハロウィンパーティーに来たのかもしれない。