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隙間②

 我が家には、自宅以外にも所有している家があった。

 ただし、何十年も放置していた。

 その家をいよいよ取り壊すことになった。

 

 幼い頃、何度か外観だけは見たことはあった。

 けれど、藤白自身は一度も中に入ったことはない。

 

 そこで、一度くらい中を見たいと言って、父に案内してもらう。

 

 中に入ると、不思議な間取りをしていた。

 

 それに、トイレは一階にも二階にもあり、外から見るよりもかなり中は広く感じるだけでなく、思っていたよりも、痛んではいない。

 木造の階段もしっかりしている。

 二階も床が抜けそうな場所は一つもない。

 リフォームすれば、まだまだ住めそうな家だ。

 

藤白「もっと廃墟っぽいかと思った」

父「生活用品とかは全部出したから、ガランとしているけどな」

 

 たしかに殺風景だ。

 けれど、生活感は残っている。

 

 興味津々で室内をウロウロしていると、一つの部屋が気になった。

 

 ほとんどの部屋は襖が取り外されていたり、扉が開けっ放しだというのに、その部屋だけ、扉が閉まっている。

 

 いいや。

 閉まっているのだけれど、わずかにすき間があいていた。

 

藤白「なんの部屋だろう?」

 

 ゆっくり扉を開く。

 中には椅子だけしかない。

 しかも、その奥の扉はきっちりと閉まっていた。

 

藤白「なんかこの部屋。人の気配がするような……」

 

 その時、ふと気がついてしまった。

 椅子の影が、椅子の形をしていないことに──

 

 もちろん、影なのだから、入ってくる光でのびて、形はいびつになったりする。

 けれど、あきらかに、椅子に誰かが座っているような影になっていたのだ。

 

藤白「でも、悪い気はしないんだよね……」

 

 なんとなく、幼い時に見た、母方の曾祖父の霊を見た時と同じような、あたたかい空気を感じる。

 

藤白「そこに誰かいるの?」

 

 その瞬間、椅子がゆっくりと回転した。

 それから、スーッと影が薄くなり、床にのびた影は椅子の形をしていた。

 

 これだけ放置してたのに、廃屋と化していなかったのだ。

 もしかしたら、家につく家神様や、座敷童といった、家を守ってくれていた何かだったのかもしれない。