
我が家には、自宅以外にも所有している家があった。
ただし、何十年も放置していた。
その家をいよいよ取り壊すことになった。
幼い頃、何度か外観だけは見たことはあった。
けれど、藤白自身は一度も中に入ったことはない。
そこで、一度くらい中を見たいと言って、父に案内してもらう。
中に入ると、不思議な間取りをしていた。
それに、トイレは一階にも二階にもあり、外から見るよりもかなり中は広く感じるだけでなく、思っていたよりも、痛んではいない。
木造の階段もしっかりしている。
二階も床が抜けそうな場所は一つもない。
リフォームすれば、まだまだ住めそうな家だ。
藤白「もっと廃墟っぽいかと思った」
父「生活用品とかは全部出したから、ガランとしているけどな」
たしかに殺風景だ。
けれど、生活感は残っている。
興味津々で室内をウロウロしていると、一つの部屋が気になった。
ほとんどの部屋は襖が取り外されていたり、扉が開けっ放しだというのに、その部屋だけ、扉が閉まっている。
いいや。
閉まっているのだけれど、わずかにすき間があいていた。
藤白「なんの部屋だろう?」
ゆっくり扉を開く。
中には椅子だけしかない。
しかも、その奥の扉はきっちりと閉まっていた。
藤白「なんかこの部屋。人の気配がするような……」
その時、ふと気がついてしまった。
椅子の影が、椅子の形をしていないことに──
もちろん、影なのだから、入ってくる光でのびて、形はいびつになったりする。
けれど、あきらかに、椅子に誰かが座っているような影になっていたのだ。
藤白「でも、悪い気はしないんだよね……」
なんとなく、幼い時に見た、母方の曾祖父の霊を見た時と同じような、あたたかい空気を感じる。
藤白「そこに誰かいるの?」
その瞬間、椅子がゆっくりと回転した。
それから、スーッと影が薄くなり、床にのびた影は椅子の形をしていた。
これだけ放置してたのに、廃屋と化していなかったのだ。
もしかしたら、家につく家神様や、座敷童といった、家を守ってくれていた何かだったのかもしれない。